恐怖 DUSTER
「それで里美、もう大丈夫なの?」

麻美の問いかけに里美は視線を合わせることなく、無言でうなずいた。


「大丈夫だって!里美はちょっと時間かかったけど、ちゃんと自分が何者であるか理解できたから」

千恵の言葉には反応せずに麻美は里美を観察するように視線を向けた。


弥生は里美の情報を記憶の中から読み込んで言った。


・・・里美は、人見知りが強くて口数の少ない子・・・


・・・性格の全く違う千恵と、なぜか気が合うのか私達の仲間内では千恵に対して一番心を許している・・・


いつのまにか自分も麻美と同じように里美に向かって観察するような視線を向けていた。


二人の視線に気づいた里美は、照れくさそうに千恵の後ろに身を隠した。


「もう!大丈夫って言ってんじゃん!時間はかかったけど里美もちゃんと入れ替わったから」


「時間が、かかった・・・?」


千恵の言葉が弥生は気になった。


その弥生の疑問を感じたのか麻美が説明口調で言った。


「里美はね、私たちと違ってあの暗闇の場所に閉じ込められていた記憶が無いのよ」


「記憶が無いの?」


「そう、里美はあの暗闇の場所でずっと眠っていたのよ。だからもう一度入れ替わっても前の里美から記憶を吸収するのに時間がかかったの」


「里美が眠っていた!・・・どういうこと?」


弥生の問いに、今度は千恵が里美に悲しい視線を向けながら答えた。


「里美はね、あの事故が原因で入れ替わりの誕生日が来るまでずっと昏睡状態で意識を取り戻す事は一度も無かったのよ・・・そしてそのまま新しい心に全て奪われてしまったの・・・」


「ちょ、ちょっと待って!あの事故?あの事故って、千恵も里美もあの事故を知っているの?」


弥生の言葉に、千恵と里美は戸惑いながら麻美に視線を向けた。


「まだ全てを弥生に説明してないのよ・・・」


麻美の言葉に弥生は驚いた。



・・・まだ、私の知らない何かがあるんだ・・・?












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