恐怖 DUSTER
弥生は前の自分の記憶の中にも無い、千恵の話を驚きながら聞いていた。


・・・千恵は麻美と同じ体験をして心を壊してしまい、同じようにあの暗闇の場所に閉じ込められていたんだ・・・


「なんかね!やっぱ、こんな湿っぽい話は苦手だ」


千恵は今にも涙がこぼれそうだった瞳を手で拭い、無理矢理作った笑顔を皆に向けた。


千恵の体験を聞き驚いていた弥生の目に里美の存在が映った。



「里美!里美もあの事故の時に麻美や千恵と同じ経験をしたって言ったよね?」



突然、自分の名前を呼ばれ、里美は千恵の後ろに隠れた。



「・・・ごめん里美は、あの事故が原因でずっとあの暗闇の場所で眠っていて、前の里美も記憶を吸収できなかったから何も覚えてないのよ」


千恵が里美の代わりに弥生に答えた。


「それが原因で、入れ替わるのも大変だったんだけどね・・・」


「記憶が無くて、なおかつ眠っていた里美をどうやって入れ替わらせたの?」


千恵は少し躊躇しながら麻美のほうを見た。


「それは簡単よ・・・」


弥生が見た麻美の表情は、ときどき見せるあの魔性の顔であった。


「言ったでしょ?私たちはあの暗闇の場所に閉じ込められていても、新しい心とは繋がっていて記憶を共有できるって・・・」


「共有?」


「あっ!そうか。弥生の場合は私たちと違って肉親の死のショックでは無かったから、あの暗闇の場所に閉じ込められていたのは心の欠片だったわね」


「えっ!そうなの?」


千恵と里美は麻美の言葉に驚き、改めて弥生をいぶかしげに見つめた。


「大丈夫よ!そこにいる弥生は間違いなく7年前の弥生だから」




麻美の言葉で、千恵と里美がいま自分に対して思った事を弥生は理解した・・・






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