恐怖 DUSTER
「だぁ~れだ?」五章
麻美は弥生の事を、千恵と里美に説明するように再び話し始める。

「弥生には、私たちと違って足りないものがある・・・」

「弥生の閉じ込められていた心が欠片だったから?」


里美が珍しく発言した。


麻美と千恵は里美の発言に少し驚き里美を見つめる。


その視線を感じた里美は、またも千恵の後ろに隠れた。

「里美の言うように弥生の心が欠片なのは、あの事故で起きた出来事の中で封印したいほどの記憶は、私の母の死だけだからなのよ」

「それだけでは、足りないの?」

「足りないわ!現に今日、弥生が入れ替わるために現れた時も弥生は自分の記憶を何も持っていなかったのよ」

「何も?弥生は自分が誰なのかも解らなかったの?」

自分に視線を向ける千恵と里美に無言でうなずく弥生。

「だからね、今の弥生は思いが足りないの」

「私や千恵や里美のように、肉親を失った悲しみが無いから心が弱いのよ」

麻美の言葉に、なんだか寂しさを感じてしまう弥生であった。

「そのために、私達の悲しみと辛さと憎しみの記憶を知ってもらい、みんなの思いを共有してもらったて訳なのね?」

「そう、弥生が私たちと思いを共有すればこれから先、弥生の心は強くなっていくから」


弥生は麻美の言葉の中に、二つの疑問を感じた?


その疑問を問いかけてもいいものかと思案したが、とりあえず一つの疑問だけ問いかけてみた。


「ねぇ?里美は、あの暗闇の場所に閉じ込められた時からずっと意識が無かったんでしょ?その里美にも悲しみと辛さと憎しみの記憶は存在しているの?」


弥生の質問に千恵の表情が暗くなっていく。


その千恵の表情を見て、里美が強い口調で弥生に言った。


「私は、里美を憎んでなんかいないからね!」


里美の激しい言葉に弥生は驚き戸惑った。


「私が憎いのは千恵じゃない!千恵じゃないの!」


弥生に詰め寄る里美を制止して麻美が言った。



「里美!解ってる!弥生も里美が千恵を憎んでいるとは思ってないから!」




おとなしかった里美の豹変に、ただ言葉を失う弥生であった・・・
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