線香花火の日
開戦
夢
久しぶりに、故郷を思い出した。
山奥の静かな町並みに、大きな櫓(やぐら)がいくつも並んだ、ちょっと不思議な風景。
町を二つに分ける川に、そこにかかる双子の橋。
橋の下には大きな広場に子供たちのはしゃぐ声が走り回り、一面白色のタンポポが絨毯(じゅうたん)となっている。
川の左側は西地区。
僕が生まれた町だ。
地区の3分の2の区域は森林で、夏には虫たちの鳴き声で賑わい、川から水をひく水路には小魚たちが気持ちよさそうに泳ぐ。
秋には農作物が収穫され、その自然の恵みに皆が喜びを感じる。
川の右側は東地区。
どちらかといえば都会的な感じの地区で、この町の大切な心臓部である。
都会的と言っても、20階以上高い建物はなく、下町らしい雰囲気もまだたくさん目につく落ち着いた区域である。
冬にはあちこちの櫓から、日没の早い空に向かって大きな焚き火の柔らかい光が、蛍のように浮かび上がっていた。
昔、その光を一目見るために、両親に頼んでこの土地に連れていってもらったことがある。
ぼんやりとした光を眺めていて、いつのまにか父親の背中で眠ってしまった記憶がかすかに存在するだけだが。
その横で母親が、僕の大好きな子守歌を歌ってくれたことも覚えている。
「ほら、おきなさい?家についたよ?」
母親が僕に言った。
「……おきなさい」
「…………おきなさい」
………………