トリプレ
 言葉は出なかった。
 肌の白い優しい表情の由衣ちゃん。
 自分の死期を悟った由衣ちゃん。それでも最後までお兄ちゃんの事を想う由衣ちゃん。
 泣いてはいけないとわかっているのに、涙が止まらなかった。辛いのは由衣ちゃんだし、相良君なのに…。
 何も知らずにのうのうと生きてきた自分が情けない。
 人は平等に幸せがあるものだと思っていた。だけど苦しい時は、自分だけが苦しいものだと勘違いして、独りで不幸者だと嘆いたりしていた。
 でもそんなんじゃない。この人達が経験してきた事は、深い傷になるハズだ。
 どうして、由衣ちゃんが死ななければならないんだろう。
 どうして、こんなに近くにいるのに、何も出来ないんだろう。
 人一人の力は無力なのかもしれない。
 
< 125 / 203 >

この作品をシェア

pagetop