トリプレ
 なんのためのバレンタインデーか。
 クラスの女子は浮かれている。男子に至っては落ち着かずソワソワしている。
 明日香と琉璃は紘貴にチョコをあげるようだ。昨日、一生懸命作っていた。
 私は男の子にチョコをあげた事がない。だから今年もあげない。
 琉璃にはそれじゃ後悔すると言われたけど、紘貴は東京に行ってしまうんだ。もう会えなくなる人に気持ちを打ち明けたって意味がない。
 モヤシ君が言ってたじゃないか。転校していく僕は過去の人間だって。
 そうだよ。紘貴は過去の人間になるんだ。思い出の中の人間になるんだ。今更好きも嫌いもない。
 何も知らない女子は、紘貴にチョコを渡していた。
「はい。瑞穂に。」
 恵那が私の机に何かを置いた。
「友チョコだよ。」
「いいの?」
「うん。美味しくないかもしれないけど。」
「手作り?」
「そうだよ。」
「すごいな…。あ、私は何も持ってきてなくて。」
「いいの、いいの。これは私の気持ちだから。」
 おぉ…気持ちをもらってしまった。地味に嬉しい。
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