トリプレ
 カナミツさんは私達に曲がり方や止まり方を教えてくれて一緒に滑った。
 ロッジで休憩した時はココアを奢ってくれた。大人だな~。
「ルリちゃんとモモちゃんは高校生?」
 私達はお互いに顔を見合わせた。
 ここは高校生のフリをしとこう…暗黙の了解。
 だって中学生って言ったらガキだと思われる。
「カナミツさんは?」
「俺、27。」
 一回りも上だ…。

 他愛もない話をして、また滑った。
「良い人だね、カナミツさん。」
 カナミツさんが少し離れた隙にモモが言った。
「うん。27歳だって。大人だよね。」
「ちょっといいかも。」
「年離れすぎだよ。」
「そうでもないよ。」
「中学生なんて相手にされないよ。」
「高校生のフリしてるじゃん。」
 そんなのすぐバレるって。

 夕方になって帰る事にした。バス停まで歩く。
「送っていくよ。」
 カナミツさんが車に乗って近付いてきた。
「いえ、大丈夫です。」
 私は断った。一応、知らない人の車には乗るなって事で。
「お金欲しくない?」
『え?』
「2万でどう?」
 んん?もしかして援交…?
 この人、ヤバイ…。絶対ヤバイ。
「いえ、結構です!」
 私とモモは今来た道を走って戻った。だけど、足は疲労していたし、雪道では早く走れなかった。
「まてコラーっ!」
 あの男は追い掛けてくる。
 怖かった。助けを呼びたかったけど、人通りもなくて息も切れてて声が出せなかった。
 男の手が私の肩を掴んだ。そのまま転んでしまった。心臓が止まるかと思った。
「琉璃!」
 モモは離れた所からこっちを見ていた。
「お前らだって下心があったからついてきたんだろ?」
 怖い怖い怖い怖いっ!
「やだーっ!」
 私は思いきり足を振り上げた。
 男の股間直撃。そして悶絶…。
 その隙にいつの間にか落としたボードと靴を拾い、逃げ出した。
 男は追い掛けてこようとしたけど、モモが大声で「痴漢だーっ!」って叫んだら尻尾を巻いて逃げていった。
「ざまあみろ。」
 肩で息をしながらモモは不敵に笑った。
「教訓だね。親切な男には裏がある…。」
 私がそう言ったらモモはゲラゲラ笑い出した。私もなんとなく面白くて笑った。
 恐怖のあまりおかしくなってしまったみたい。
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