トリプレ
 家の前には泉がいた。誰かを待っていたんだろうか。
 泉の家も明日引っ越す。母と息子の2人で暮らすには広いらしい。そう遠くには行かないけれど、もうお隣りさんじゃなくなるのかと思うと、少し寂しい。
「よぉ、相良のボタンはもらえたか?」
「もらえたけど…何番目のボタンかわかんない。」
「なんだそりゃ。」
「でもいいの。記念だから。」
「未練がましい女だな。」
「いいじゃん。」
「いーけどよ。」
 泉が近付いてきた。殴られるような気がして身構えた。
「あっ!雪だるまが空飛んでる!」
 泉は空を指さした。その先を追う。
 瞬間、頬に何かが当たった。
 理解するのに時間がかかった。
 今のって…。
「これも記念って事で。じゃあな。」
 生まれて初めて、男の子にキスされた。
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