トリプレ
 琉璃の後ろを黙って歩く泉と私。
「泉のおかげで彼氏と別れましたけど。」
 皮肉なのか感謝なのかよくわかんないニュアンスだ。
「モテる男はツライね。」
 いや、あんたモテてないし。
「でも殴ってくれて助かったかも。」
「だべ?俺は女を殴る男は大嫌いでよ。あんな奴別れて正解だよ。…あ。」
 調子こいて琉璃の顔を覗き込んだ泉は、そのまま固まってしまった。
 琉璃は…泣いていた。
 …。
 しばらく誰もしゃべらなかった。

 こんなに泣いている琉璃を見たのは初めてかもしれない。いつも明るくて元気な琉璃。怒られてもブツブツ文句は言いながらも、泣きはしなかった。転んで腕を骨折した時だってこんなには泣いていなかった。
 これって失恋なのかな?
 私にはまだわかんないけど、きっとすごく悲しい事なのかもしれないね。まだ、わかんないけど…。
 だからこんな時は、何て声を掛けたらいいのかもわからない。

「俺…お前の泣いた顔、一生忘れないわ。」
 泉…もしかして琉璃を励まそうとしている?
「なにさ、青春ドラマ?」
 琉璃は涙を手で拭いながら、少し笑顔になった。
「こんな凄まじい顔、滅多にお目にかかれないよな。写メ撮っていい?」
「はぁ?」
 何を言ってんのだ、泉!そりゃ琉璃も怒るよ。写メ撮んなって、マジで。
「ちょっとホントに撮んないでよ!何してんのさ。少しは励ましたりしてよ!」
「自分で別れるって言ったくせに、何で俺が励まさなきゃいけないの?」
「…。」
「俺が殴んなかったら、自分で殴ってたんじゃないの?拳握り締めてたじゃん。」
「…。」
「凶暴な女になんなくて良かったね。」
 泉はそのまま帰って行った。
 凶暴な女になんなくて良かったね…だって。泉のくせに琉璃に気を使ったのだろうか。瑞穂が聞いたらどう思うかな…?
 久しぶりに、私の知っている泉に会えた気がする。
 
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