トリプレ
 ある日、私はお母さんと隣町のデパートに買い物に行った。車で1時間はかかるところ。そこで彼を見た。エスカレーター前のベンチに1人で座っていた。
 買い物を終えて帰る頃になっても、彼はまだ1人で座っていた。
 なんだか心配になって彼に声を掛けた。
「誰を待ってんの?」
 彼は答えなかった。
「車で来たの?」
「…バス」
「じゃあ早く帰らないとバスなくなるよ。」
 これにも答えなかった。
「誰を待ってんの?」
 もう一度聞いた。
「…ねぇ、死んだらラクかなぁ?ラクだよね?」
 ビックリした。いきなりそんな事言うなんて。死にたいと思うほど、彼は辛いんだ。そう思ったら、悲しくなって…みっともないけど泣いてしまった。
 死にたい、と思わせる事がこんなに簡単に出来るなんて。
 その日は、お母さんに頼んで彼の家まで送っていった。

 私がクラスの男子を殴ったのはその次の日だったと思う。彼に対する態度も暴言も、もう黙って見過ごせなかった。
 殴った事に関しては、先生に怒られた。校長室にまで呼び出された。女子が男子を殴るなんてと。最悪な事に親まで呼び出された。お母さんにもガッツリ怒られるだろうと思ったけど、逆に先生を怒ったんで驚いた。
「一発殴ったくらいでギャーギャー騒ぐ前に、いじめられている子を救うために騒ぎなさい!」
 この時ほど、お母さんを心強いと思った事はない。しかも最後に
「うちの瑞穂は特別怪力なんです。心にまで響く一撃だったでしょうね。」
と、言い残した。母は強し。
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