トリプレ
 夜は函館山の夜景を見た。
 大宮恵那と二人で北島三郎記念館に行った事は誰にも言わない事にした。彼女の友達は私の事を良く思っていないから。それで彼女が友達を失ってしまったら悲しいでしょ。
 独りでいる方がラクだ。
「あっいたいた。探したよ、瑞穂。」
 紘貴がやって来た。もう私が瑞穂だと完璧に判別出来るようになったんだろうか?
「何か用?」
「別に。」
 用も無いのに探してたのか?こいつ。
「瑞穂が独りで夜景見て泣いてるかもしれないって思ってさ。」
「何で泣くんだよ。」
「夜景を見ると孤独を感じない?それぞれの家庭があんなに明るく灯っているのに、自分は暗闇で眺めてるだけなんだから。」
「そんな風に考えた事ない。」
 夜景なんて見ても何も感じないよ。人間の造った人工物だもん。
「あっ!見て。あそこハートって見える。」
 紘貴は柵から身を乗り出して夜景を指さした。
「どこ?」
 私には見えない。
「ホラ、ここから真っ直ぐ…俺が指さしてるとこだよ。」
「え~?…あっ、わかった。うん、ハートって書いてるように見えるね。」
「この文字を見つけた二人は幸せになれるらしいよ。」
「………だから?」
「それだけ。」
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