トリプレ
 夕方になって帰る頃にはいくらか涼しくなっていた。
 私と紘貴は帰る方向も同じだから、一緒に帰った。
「こっちの夏はこんなに暑いんだね~。」
「そういえば、紘貴ってどこから転校してきたの?」
「瑞穂ったらそんなに俺の事知りたいの~?」
「はぁ?なんでそうなるんだよ!」
 こいつ、意味わからん。
「別に知りたくもないわ!」
 紘貴を置いて早足で歩く。
「怒った?」
 紘貴が追い掛けてくる。
「怒ってねー…」
 振り返った先に紘貴…の後ろに、お父さんがいた。
 鬼のような形相でこっちを見てる。と思ったら鬼がこっちに近付いてきてる!
「どうしたの?」
 何も知らない紘貴は私の視線の先を追った。もうすぐそこに鬼が!紘貴の目の前まで迫り、紘貴の肩を掴んだ。
「どこの馬の骨ですか?」
 父親の言う台詞じゃないよ~!
「え?」
 紘貴は困惑中。
「わぁ~っやめてよ、お父さん!」
 お父さんの手を紘貴から離そうと引っ張ってみたけど、ガッチリ掴んで離してくれない。
「…お父さん!?」
「お前の父さんじゃない!うちの娘に手ぇ出したら承知しねーぞっ!」
 ひぇ~っ!血の気が引くぅ~!
「ち…違うんだってば!夏期講習一緒に受けてて、その帰りなんだって!」
「…。」
 お父さんは私の目をしばらく睨んだ。この親父…なんてことしやがるんだ。私も負けじと睨み返した。
「ふんっ!」
 お父さんの負け。先に目を逸らした。
「ホラ、早く帰ろう。お父さんだってせっかく早く帰ってきたのにさ。」
 無理矢理お父さんの腕を引っ張る。紘貴にはアイコンタクトであっち行ってくれと伝えてみる。
 伝わったのか、紘貴はペコリと頭を下げて別の道に入っていった。こんな親父に頭なんか下げなくたっていいのに。
「おい、ちょっと待て。」
 げっ!お父さんは紘貴の背中に呼び掛けた。振り向く紘貴。
「うちは男女交際禁止だからな。」
 な~にを言い出すんじゃ、この親父ぃ~っ!ウザすぎる!
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