雪色野薔薇
檜山ミチルは 笑わない。いつも背筋を伸ばし毅然とした態度でいるので、


生徒からは煙たがられていた。容貌はちょうど宝塚の男役が女優に転進したような


雰囲気で髪は長く、整った顔立ちをしているのだが、それがかえってあだになって、


親しみやすさからは遠ざかる原因になっている。


「先生っていつ笑うんですか?」授業中、ミチルは田中美穂からいきなり問いかけられた


ことがあった。


「人間ですから笑いますよ。」


ミチルは淡々と答える。


「センセ、笑ったほうが絶対かわいいとおもうけどな」


ミチルは唇の端を少しだけゆがめた。


「今、笑った!!」


田中美穂はそういった。


ミチルは思った。笑わないのではない。笑えないのだ、と。


田中美穂は成績のいい生徒ではなかった。


1年のときに両親が離婚し、それまで星野美穂だったのが、母方の姓の田中を


名乗るようになったのだ。


つまり、母親に引き取られたというわけだ。


兄弟はいない。いや、兄が一人いた。兄とは年が離れていて


兄は確か独立していたはずだ。


ミチルは美穂の孤独を思った。そしてそれは彼女自身の孤独につながった。
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