雷鳴の夜
動けない。

殺気剥き出しのヴィクターを見つめたまま、私は戦慄に身を固くする。

そんな私をよそに、ヴィクターはゆっくりと歩き始めた。

全身から殺意を漂わせながら、目前の闇を凝視して、ゆっくりと歩を進める。

…思い出したように、呪縛が解けたように、私も彼の後を追った。

但し、ヴィクターとは一定の距離を置く。

そばには近づかない。

迂闊に彼の背後に立てば、如何に私であろうと彼の殺気の犠牲になるような気がした。

密林で虎にでも遭遇したら、きっとこんな感覚に違いない。

生まれて初めて味わう、本気で殺されかねないほどの殺意だった。

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