雷鳴の夜
恐る恐る、私は室内を覗き込む。

…それが境界線。

辛うじて現実と非現実を分かっていた境界線を、私自身が踏み越えた瞬間だった。

霊安室に、確かに何かがいた。

部屋の隅。

闇に包まれた室内に、何かが蹲っている。

暗闇にボンヤリと浮かび上がるその姿は、人影に見えた。

大柄に見えるその人影が、こちらに背を向け、蹲ったまま一心不乱に何かをしている。

見ない方がいい。

本能がそう告げるものの、見えない事がもどかしくて。

私は、ペンライトでその人影を照らす。

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