道標


  伍

 電車はゆっくりと駅を出発する。
 車内には僕と女の子の二人だけ。
 僕は向かい窓から、外の風景を眺めている。
 女の子は僕の隣りでシートに膝で立ち、窓を開け外を見ている。
 黒い髪が風でなびく。
 茜色のマフラーが揺れる。
 運転室のドアが開き、前から車掌が来るのが見える。
「御苦労様です」
 僕はそう言って会釈をする。
 男の車掌は足を止め、僕を見る。
「何処まで行くんだい?」
 見た目は四十から五十代。優しそうな男性。
「終点までです」
 僕はバッグから切符を取り出す。
 始発から終点まで。片道切符。
「旅行かな?」
「はい」
 車掌は軽く笑う。
「ハハ、若い者はいいねえ。それにしても、今日はやけに乗客が少ないなあ」
 他の座席を見回し、そう言う。
「大変なんですか?」
 それを聞くと、車掌は苦笑いを浮かべる。
「この頃は赤字続きだな」
 それから溜息交じりの息を吐く。
「それじゃあ私は仕事に戻るとするかな」
「頑張ってください」
 僕は言う。
「ハハ、ありがとう」
 車掌はそう返事をし、来た通路を戻ろうとする。
「おっとそうだ。そこの窓、降りる時にちゃんと閉めといてくれよ」
 途中で振り返り、そう言い残して運転室へと戻って行く。
 僕はその後ろ姿を見送った後、まだ窓を開けて外を眺めている女の子に声を掛ける。
「何か面白いものでも見つけたのかい?」
 僕がそう聞くと、女の子が振り返って僕を見る。
 窓をパタンと閉め、シートに座り直す。
「ん~、特に面白いものは無かったけど、ただ自分の生まれ故郷に帰って来たんだなあ。と思って」
 そう言って女の子は、制服の上着のポケットから携帯電話を取り出す。
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