道標
壱
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「お兄さん横に座ってもいい?」
駅を出てすぐに僕は声を掛けられた。
声を掛けてきたのはもう一人の乗客。
「どうぞ」
僕は笑顔を作り答える。
もう一人の乗客は高校生の女の子。紺色の制服を着ていて、首には少し早めのマフラーを巻いている。マフラーは茜色。
「お邪魔します」
女の子も笑顔になり、僕の横にちょこんと座る。肩よりも少し長めの髪が揺れる。
「お兄さん一人旅?」
女の子の問いに答える。
「そうだよ。君は?」
そして聞く。
「あたしは家に帰るところ」
窓の外は集落が消え、また山の紅葉だけに変わる。
僕は紅葉が好きだ。
だけどもう少したてば紅葉は終わる。
その美しい葉は木から落ちていき、その役目を終える。
そして、空からは雪が舞い降りてゆき、この世界を無彩色の世界へと変えていく。
その冬まであと少し。きっと僕はその時も旅をしている。
「家に帰る?君は家出少女かい?」
その子は声に出して笑う。
「ううん違うよ。あたしはこの春に都会の高校に入学したの。あたしの家は小さな村にあるんだ。お兄さんはどこからきたの?」
「僕かい?僕は宮城からきたんだよ」
僕は宮城で二ヶ月の間暮らし、夏の終わりと共に北へ向かった。
「えっ!?お兄さん岩手の人じゃないの!?」
驚く女の子を見、その反応の大きさに笑みがこぼれる。
「そう、僕は京都の出身だよ」
「ええっ!!お兄さん京都の人なの!?京都から岩手にきたの!?」
自分があまりにも大きな声を出したことに気が付き、慌てて両手で口を塞ぐ。その後、少し恥ずかしそうな表情を作りながら車内をキョロキョロと見回す。
乗客は僕と女の子の二人だけ。
「良かった、誰もいなくて」
電車は走り続ける。
線路と並んで走る道。車が三台すれ違う。
「お兄さんって、京都から一人旅?」
僕が頷くと羨ましそうな表情に変わる。
「いいなあ。あたしはこの県から一度も出たこと無いからお兄さんが羨ましい」
「君は学校の修学旅行で他の県に行かなかったのかい?」
小さな踏切を小さな電車が通り抜ける。
少しの間散歩を中断された犬。
電車が走り去って行くのを道路に座りながら待つ。