道標
「うん。だって小学校の修学旅行は県内だったし、中学校の時は宮城県だったんだけど、あたし風邪引いちゃって行けなかったんだもん。あー行きたかったなあ」
 女の子は残念そうにそう言う。
「僕はね、ここに来る前は宮城に二ヶ月程住んでいたんだよ」
「ええっ!?いいなあ……。ねえ、宮城のことあたしに話して聞かせてよ」
「いいよ」
 僕は話し出す。女の子は笑顔で聞き入り、時々相づちを入れたり、質問をしたりする。
『次の駅は、』
 僕の話が終わると同時に車内放送が流れ出し、放送が終わると同時に女の子が僕に質問をする。
『お降り口は右側です』
「お兄さんって、これから何処に行くの?」
 女の子の問いに僕は笑顔で答える。
「さあ、僕にも分からないな。ただ、これから冬が来るから北の方に行こうと思ってるよ」
「お兄さんはずっと一人旅をするんだね。京都の家には帰らないの?」
「さあ、それも僕には分からないよ。もしかしたら来年の今頃には帰っているかもしれない」
 電車はまたゆっくりと速度を落とし始める。
「お兄さんは、お父さんやお母さんに会わなくても寂しくないの?」
「そうだね。あまり寂しいと感じたことは無いかな」
 電車は駅へと滑り込む。
 僕も女の子も吊革も電車に合わせて一緒に揺れる。そして電車は止まる。
 ここも無人駅。
 今、電車の中には僕と女の子の二人だけ。


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