道標



  壱

「あれ?もしかして道さん?」
 僕はそう声を掛けられ、振り返る。
 僕が振り返った目線の先に立っていたのは一人の女の子。
 深緑色の短い髪を、桜の花びらを象った髪留めで止めている。髪留めの色は淡い紅色、桜色。
「やっぱり道さんだ!」
 女の子は制服のスカートを揺らしながら、まるで小さな子供のように歓声を上げる。
「久しぶりだね」
 僕は笑顔を向ける。
「久しぶりだよ!あの時も桜が咲いてたもんね。と言う事は一年ぶりだね。道さん元気にしてた?」
 嬉しそうに声を上げる女の子と、僕の間を桜の花びらが舞い落ちていく。
「今でも一人旅をしているの?」
 女の子は僕に近寄り、聞く。
 僕は答える。
「そうだよ」
 小さな子供を連れた夫婦が、僕と女の子のすぐ横を通る。両親に手を繋がれ、嬉しそうに歩く幼い男の子。
「あの後、北の方に行ったんだよね?何処まで行って来たの?」
 女の子はまた聞く。
「そうだね、北海道まで行って来たね」
 それを聞くと、女の子は驚いて目を真ん丸くする。
「すご~い!ね、北海道はどうだった?」
 僕は微笑む。
「雪が綺麗だったよ」
 その答えを聞くと、女の子は期待していた答えと違ったためか、カクッと頭を下げる。
「んも~、そう言うことじゃなくて、どんな所に行っていたとか、何をしたとか聞いてるの!」
 女の子は少しばかり怒ったような表情で言う。
「そうだね、札幌で雪祭りを見たよ」
 僕は笑いながら答えを訂正する。
「札幌の雪祭りを見たの!?いいないいな、あの有名な雪祭りでしょ?わたしも見たいなあ」
 女の子の声を聞きながら、僕は札幌を思い出す。
 その街で出会った雪のような想い。そして白いコートを着た一人の女の子。
「ね、道さん」
「何だい?」
 僕は女の子を見る。
「道さんはまだあの仕事をしてるの?」
 女の子は急に真剣な表情をし、僕の顔を下から覗き込む感じで聞く。
 僕はまた笑顔を作り、答える。
「そうだよ」
「そうなんだ……」
 女の子はそう言ってから、また満面の笑顔に戻り、
「お仕事ご苦労さま!」
 と、言う。
 僕は笑顔のまま、
「ありがとう」
 と、返事を返す。
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