道標



  参

 坂を登りきり、少しばかり広くなったところで女の子は立ち止まる。
 僕も立ち止まる。
 北西には、二本松市が木々の間から覗く。その街の様子を見る僕。
 頭上には、晴天の空が花々の間から覗く。その空の様子を見る女の子。
「いい天気だね」
 僕は街を見るのを止め、今度は女の子と同じように空を見上げる。
「うん、快晴だね!」
 女の子は嬉しそうに言う。
「空に雲一つないと、空の青に吸い込まれて行きそうになるね!」
 そう女の子は言うと、若草で覆われた地面にふわっと倒れこみ、四肢を伸ばす。
「気持ちいい!」
 女の子は眩しそうに目を細めながら、気持ちよさそうにそう声に出す。
「制服が汚れるよ」
 僕は笑いながら言う。
 女の子は目を瞑り、笑顔で答える。
「いいの!それよりも道さんも寝っ転んでみてよ!本当に気持ち良いんだよ!」
 僕は一度空を見上げた後、女の子の隣りにそっと横になる。
 目に入る空の青。それは春の色。
「君は変わっているね」
「そうかなあ?」
「普通の高校生の女の子はこんな事はしないよ」
「いいの!わたしは普通じゃなくて!」
 女の子は笑う。そして、
「ダメかなあ?」
 そう言う。
 僕も笑う。そして、
「君らしくていいね」
 そう答える。
 女の子は笑うと、その頬は桜色に染まる。淡い桜色。揺れ落ちる花びらと同じ春の色。
 僕と女の子の間を、一枚の花びらが舞い落ちる。


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