道標



  陸

 僕と女の子は来た道を引き返す。そして最初に会った所まで辿り着く。
「この街は綺麗な街だね」
 僕は言う。
「そうかなあ?」
 女の子は僕の隣りで首を傾げる。
 僕は街の景気を見るのをやめ、女の子を見る。
「道さんはこの街のどんなところが気に入ってるの?」
 僕は長椅子に座ったまま答える。
「桜がとてもよく似合うところだね」
 女の子は大きく延びをする。制服の間から白いブラウスがはみ出る。
「桜が似合う街なんて、日本中にたくさんあるよ」
 女の子の髪に付けられた桜の髪留めは、太陽の光を浴びて光る。
「僕の中ではね、この街は桜の街なんだよ」
 一年前、初めてこの地を訪れた時も桜の季節。そのとき出逢った双子の姉妹。そして散っていった想い。桜のように。
「ふ~ん、道さんって変わってるね」
 女の子は座らず、ベンチの前に立つ。
「そうかな?」
「そうだよ」
 女の子と僕は笑う。
 誰もいない広場では、僕と女の子の笑い声が響く。
 女の子の頬は淡紅色に染まる。髪留めと同じ色。
 僕は微笑んだまま聞く。
「君の想いは何だい?」
 一枚の花びらが静かに僕と女の子の間を揺れ落ちていく。


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