道標



  漆

 女の子は一瞬だけ寂しそうな表情を見せ、すぐに笑顔になる。
「やっぱりばれちゃった」
 女の子はまた少し舌を出す。まるで子供のように。
 僕は笑顔のまま言う。
「それが僕の仕事だからね」
 女の子は残念そうに僕の隣りに座る。
「あ~あ。道さん、昔は区別が出来なかったって言ってたから、もしかしたらって思ったのになあ」
 女の子は僕を見る。
「いつから分かってたの?」
 僕も女の子を見る。
「最初からだよ」
「最初っから分かってたの?道さんの意地悪!」
 女の子は立ち上がると、くるっと振り返り僕を見る。その女の子は嬉しそうに言う。
「道さんはわたしの願い叶えてくれるんでしょ?」
 僕も立ち上がる。
「そうだね、それが僕の仕事だからね」
 いつもとは違う強い風が、僕と女の子と桜の木の間を通り過ぎる。
 ばたつくスカートを気にせず、女の子は僕を見つめる。微笑むだけで桜色に染まる頬。その頬をかすめて飛んでゆく同じ色の花びら。
「君の思いは何だい?」


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