道標



  参

「ねえ、次の駅までに何回トンネルをくぐるか分かる?」
 女の子の問いに僕は答える。
「さあ」
 その言葉を聞くと、女の子はその答えを待っていましたとばかりに言う。
「七回だよ、七回!次の駅までそんなに距離無いのに七回も通るんだよ。あ、ほら最初のトンネルが見えてきた!」
 女の子が指差す。
 近づいて来るトンネル。
 近づいて行く電車。
「凄く短いよ!」
 女の子が声を上げる。
 トンネルに入る。
「七回もトンネルがあるなんて、よく知っているね」
 僕は女の子に話し掛ける。
 電車はトンネルを抜ける。
 女の子は得意そうに答える。
「だって何回も乗ってるんだもん。一人だと降りる駅に着くまで凄く暇だから、あっ、ほら二つ目のトンネル!」
 女の子の声にトンネルの音が混じる。
「それでね、よくトンネルの数とか、鉄橋の数を数えてるの」
「本を読んだりはしないのかい?」
 電車はトンネルを抜ける。
「う~ん……、あまり読まないかな。あ、でも夏休みが終わって下宿先に戻るときは、休み明けテストがあったから教科書を読んでたよ」
 僕は声を出して笑う。
 女の子もつられて笑う。
 向こうには三つ目のトンネル。
「それにしても、本当に短いね」
「そうでしょ!はい三つ目ー!」
 トンネルの音は僕の耳には心地良い。
「お兄さんって、食べ物とか寝る所とかお金とかは、どうしてるの?」
「そうだね、いつもお金が無くなったら、無くなった所で少しの間だけ働いて、また旅が出来る位のお金が貯まったら、そこからまた一人旅が始まるね」
 僕がそう答えると、女の子は感心したような表情をする。
「すご~い。何だかお兄さんがかっこよく見えてきちゃった。あたしと一つしか違わないのに、考え方も、話し方も生き方もすごく大人っぽくて尊敬しちゃう」
 揺れる電車と、それに合わせて揺れるその子の黒い髪。
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