道標
「僕のする仕事はね、こうやって一人旅をしながらでも出来る仕事なんだよ。仕事と言っても、給料を貰うわけじゃないから、どちらかと言えばボランティアみたいな感じかな」
 そう説明すると、女の子はさらに首を傾げる。
 トンネルの出口が近づいて来る。
「それって仕事?ねえ、どんな事をする仕事?あたしには全然見当がつかないんだけど……何て言う仕事?」
 女の子は首を傾げたままの状態で聞いてくる。
 電車はトンネルを出る。
「そうだね、僕も僕の仕事の正確な名前は分からないんだけど、僕はこの仕事を『道標』と呼んでいるよ」
 小さな電車は小さな鉄橋を渡る。
「みちしるべ?」
 女の子は確かめるように聞き返す。
「そう」
 僕は頷く。
「その仕事は具体的に言うと、どんな事をするの?」
 女の子の質問は続く。
 そして僕の旅も続く。
「そうだね、君に一番分かりやすく言うと、君を無事に送り届ける事だよ」
 電車はトンネルに入る。六番目。
 女の子は声に出して笑う。
「お兄さん、ごまかそうとしても無駄だよ。あたしもう高校生なんだから、からかわないでよ」
 僕も笑って言う。
「ごめんごめん。君を送り届けるってことは冗談だよ」
 女の子が笑うと、首に巻いてあるマフラーが揺れる。
 電車はトンネルを抜けて走り続ける。
「君には将来したい仕事は無いのかい?」
 そう聞くと、女の子は電車の天井を見上げながら考える。
 天井からは広告がぶら下がっていて、電車の揺れに合わせて揺れている。
 終点まで続く道路。
 電車よりも僅かに遅い速度で走る車。
 その車たちを一台、また一台と追い越していく電車。
「そうだ思い出した!あたし昔ね、保母さんになりたいなあ。って思ってたんだ」
「保母さん?」
 僕は聞き返す。
 女の子は僕を見る。
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