ホスト 神
その感触に確信を持った瞬間、花束に鼻を深く突っ込まれたような気分になった。



美月さんの香水と、シャンプーの香りが混ざった匂い。



俺が蜜蜂なら、巣に蜜を運ぶのを忘れ、その花束の中に住んでしまうだろう…蜜蜂じゃなくて良かった。



そんな事を考えながら自分の右腕を見ると、美月さんが満面の笑みで俺と腕を組み、下から見上げている。



「神君はちょっと私に付き合ってくれる?」



そう言うと一度デスクに向かっていき、黒いオーストリッチのハンドバックを手に戻ってきた。



「はい!俺も行きます!」



ジュンは姿勢を正し、真っ直ぐ右手を挙げている。



「ふふっ。ジュン君は又今度ね?さぁ神君、行きましょう。」



美月さんが腕を組んできた…俺は今一話しが分からず立ち尽くすが、ホストの習慣でエスコートしてしまうのが情けない。ドアを開けて美月さんと二人で下に降りていく。



ジュンの現役時代並のガン飛ばしを、背中に受けながら…。



一階のホールには、月矢を介護している若いホストが二人と、売上金を束ねているボーイしか居なかった。



「皆、お疲れさまね。」



美月さんが言い終わると同時に、返事がフロア中から返ってくる。



『お疲れさまでした!』


俺も月矢を介護している若いホストに軽く頷いて、美月さんと店を出る。



店の前には美月さんの赤いコルベットZ06が止まっていたが、それに乗って直ぐに誰からかメールがきた。




ジュンだ…帰ったら電話くれ。と最後にニコッと笑っている絵文字と怒ってる血管の絵文字…。
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