ホスト 神
でも…何時頃からだろうか…あれだけ忌み嫌っていた太陽に、憧れを抱くようになったのは…。



遠い昔、母親に裏切られたと思い、心の中の闇の奥底に、頑丈な箱に固く鍵をかけて閉じこめた筈の感情を持った自分は、陽子の春の太陽のような優しい笑顔に鍵を外して外に出た。



だが陽子が居なくなった後、今度は闇の奥底にある泉に、更に固い鍵をかけて放りこんだ。



そして由美と出会い、由美の夏のような眩しい笑顔に安らぎを覚え、その箱は水面に浮かび上がり、周囲の様子を伺っていた。だが俺は、それを見て見ぬ振りして誤魔化していた。その事にようやく気が付き、箱を開けて飛び出した途端に、由美という夏の太陽はいなくなった。



由美がいなくなり、悲しみに打ちひしがれていたが、由美は月灯りのような淡い光を残していってくれた。



そのお陰で箱は泉の底に沈むことなく、未だ水面の上を様子を伺いながら漂っている。



一度太陽を見てしまったから…その眩しさを覚えてしまったから…太陽に憧れを持ってしまったのかもしれない。
< 382 / 444 >

この作品をシェア

pagetop