ホスト 神
「このお客なんだけどな、ウチの店は初めての筈なんだ。」



俺は何も考えずに、無機質なモニターを眺めた。


「えぇ。さっき横目で見ましたけど、荒れてますね…。」



ハルさんは椅子の背凭れに、体全体を静かに預けた。


「あぁ。ケンと昴が潰された。初回でこれだけ使うって事は、初回荒らしか、売り掛け飛ばして逃げるか…もしかしたら太客か…どうだ神?付いてみるか自信有るか?」



どうせ来月に順位は落ちるだろう…少ない可能性に賭けてみるのも悪くないか…。



「分かりました。俺が付いてみますよ!」



ハルさんは白い前歯を蛍光灯で輝かせながら、悪戯に笑う。



「本当は蓮でも付けたいんだが、今日は未だ出勤してないからな。」



蓮さんは、俺が[fly]に入った時から不動のナンバー2だ。入ったばっかの時は、良く蓮さんに面倒を見てもらっていた。



俺がオーナー室を出ようとすると、此方を一切見ようともせずに、ハルさんが冷たい声を投げてくる。



「神!幾らお前でも売り掛け飛ばされたら…分かってるよな?」




俺はその言葉の重みを胸に秘め、オーナー室を後にした…あの客にこれ以上飲まれ、売り掛け飛ばされたら俺も終わりだな。
< 70 / 444 >

この作品をシェア

pagetop