ばうんてぃ☆はうんど・vol.1〜地中海より愛を込めて《改訂版》
さらに、かなりの大荷物(おおにもつ)を持っていたらしい。それもだいぶ(おも)そうだったと。
おそらく中身(なかみ)はコカとダイヤだ。それを持って(あわ)てもせずチェックアウトしたということは、もしかしたらブツをさばく算段(さんだん)ができたのかもしれない。
俺はふと思いつき、さらに質問(しつもん)する。
「この男、部屋(へや)電話(でんわ)は使ってたか?」
「えー……少々お()ちを」
フロント係はデスクトップを操作(そうさ)し、通話記録(つうわきろく)を呼び出す。
「お部屋の電話はご使用(しよう)になられてませんね」
「そっか。ありがとう」
さらにチップを渡し、俺達はホテルを後にした。
 
「さて、どうしたもんか……」
ホテルの外でダヴィドフ・ライト――俺の一番好きなタバコだ――に火をつけ、考えてみる。ちなみに相棒のディルクはタバコは()わない。『(のう)萎縮(いしゅく)する』んだそうだ。
「どう思う?」
俺は相棒に意見(いけん)(もと)める。
「ブツをさばく前にチェックアウトしたということは、こことは(ちが)(まち)、バルセロナ以外で取り引きする可能性(かのうせい)が高いということだ。それなら、やつが街を出る前に(つか)まえる方が(きち)だな」
(たし)かに。このまま街を出られると、次はどこへ(あらわ)れるのかわからなくなる。
「ならまずは、マルケスがまだバルセロナにいるかどうかを確かめるのが先決(せんけつ)だな」
言って俺はスマホを取り出し、あかりを呼び出す。
何度目(なんどめ)かのコール音のあと
『もっしー』
ムダに能天気(のうてんき)な声が聞こえてきた。
『何か用?』
しかし、しゃべり方が何かおかしい。口の中に何か入っているような、何かを食べているような――てか絶対何か食いながらしゃべってる、このガキ。
(まわ)りからは大勢(おおぜい)の人間の話し声のようなものも聞こえてくる。
「――お前今どこにいる?」
『んー? 港近くのカフェ。パエリアとアイスマジヤバー♪』
「船見張(みは)っとけっつったろ!」
このガキはいつもこんな調子(ちょうし)だ。
『らーいじょぶ、らいじょぶ。ECUロックしといたし、入口もオートセキュリティにしといたから。この天才(てんさい)あかりちゃんの作ったシステムなら、マジちょー完璧(かんぺき)。もごもご』
確かにこいつの腕は天才だが、それ以上に色々不安な点が多すぎる。
「あー……わかったもう良い。それよりマルケスの携帯(けいたい)わかるか?」
あかりのことだ。メシ食いに行く時でも、タブレットくらい持って出てるだろう。
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