ばうんてぃ☆はうんど・vol.1〜地中海より愛を込めて《改訂版》
『ん。多分わかるけど、調(しら)べてどぉすんの?』
「ヤローの現在地(げんざいち)が知りたい。スマホのGPS(ひろ)えないか?」
『できるとは思うけど、そもそもそいつスマホなんか持ってんの?』
「ああ。間違いなく持ってる」
マルケスはホテルの電話を使っていなかった。にも(かか)わらず、ブツをさばく算段をつけたってことは、ホテル以外の電話で連絡(れんらく)を取ったってことだ。
普通のやつなら公衆電話(こうしゅうでんわ)を使うだろうが、マルケスの迂闊(うかつ)性格(せいかく)から見て、まず間違いなくスマホなり携帯なりを使ったと判断(はんだん)したのだ。
『おっけー。なら、マルケスのカード番号から口座(こうざ)()り出して銀行(ぎんこう)のサーバをハッキングして――そこから引き落とししてる電話会社をピックアップして――って、一社しかないしー。んで、その会社のサーバに侵入(しんにゅう)してマルケスのケー番()き出して……。はい、かんりょー。
てかこいつ、なんでプリペイドじゃなくてフツーにスペインのケータイ使ってんの? 簡単に足ついて(くさ)()える。てかヤバいよね犯罪者的(はんざいしゃてき)に』
電話の向こうでケタケタ(わら)ってやがる。耳障(みみざわ)りな笑い声だ。日本のジョシコーセーはみんなこんな笑い方なのか?
「笑ってないで、早く場所割り出せ」
『なんか、ちょー上から目線(めせん)ぢゃね? あんま態度(たいど)でかいと、(おし)える気なくすってゆーか』
「いいから、早く教えろ!」
だんだんイライラしてきた。
『てかちょーせっかち。早い男は(きら)われるっつーの。
――んーさすがにGPSは切ってるっぽい。基地局(きちきょく)電波(でんぱ)だとまだバルセロナ。南の方……てか港周辺(しゅうへん)
「なんだよ。逆戻(ぎゃくもど)りかよ……」
俺はため(いき)を一つつく。
『何? 戻ってくんの? だったらこの店来なよ。あたし的にマジヤバすぎくんだから』
(よう)するに『すごく美味(うま)い』と言いたいらしいのだが、(ぎゃく)意味(いみ)にもとれる。
「わかったわかった。今から戻るから、お前はその店で待機(たいき)してろ」
『おっけーっす。んぢゃあとでねー』
最後まで緊張感(きんちょうかん)のない声で、電話を切った。
こいつは自分が危険(きけん)な仕事をしているという感覚(かんかく)がないんじゃないだろうか。
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