ばうんてぃ☆はうんど・vol.1〜地中海より愛を込めて《改訂版》
まずい。そう思い、なんとかごまかそうとする。
人違(ひとちが)いだ」
「いいや人違いなんかじゃねえ。金髪(きんぱつ)碧眼(へきがん)の『血塗(ちぬ)られた(きば)』、通称(つうしょう)“ブラッディ・ファング”。間違いねえ。俺達同業者(どうぎょうしゃ)の間じゃ、あんたを知らねえやつなんかいねえよ」
言ってゲラゲラ笑う。
よりにもよって、こんなところで同業者に会うとは。こいつもマルケス(ねら)いか? しかし――
「あんたも仕事かい?」
「いや俺は――」
「実はよ。俺もケチなコソ(どろ)追っかけて来たんだが、これが見事(みごと)に逃げられちまってよー。こんなところでヤケ酒よ。まああんたくらいの凄腕(すごうで)ともなりゃ、そんな小物なんか相手にしねえよな。ガハハ」
まるで人の話を聞いちゃいねえ。これだから酔っ払いは始末(しまつ)(わる)い。おかげで――
 
がたんっ!
 
思った通り。マルケスがイスを()とばして店から()び出して行っちまいやがった。
「くそっ!」
俺もすかさず後を追う。
「あり? わりぃ。仕事中だったか?」
背中(せなか)から、ひげ(づら)酔っ払いの声が聞こえた。
その通りだこのド間抜(まぬ)け。少しは(さっ)しろ。あかり風に言えば、あんたマジありえんてぃー!
「ディルクすまん! そっちへ行った!」
了解(りょうかい)
インカムで呼びかけると、すぐに相棒が答えた。ディルクに張っておいてもらって良かったぜ。
階段を()け上がると、すでにディルクがマルケスを取り押さえていた。
「くそったれ! 放しやがれ!」
そう言われて放すバカはいない。(うで)を後ろにひねり上げられ、(かべ)に頭を押し付けられている。これでチェックメイトだ。
「サンキュー、ディルク」
「問題ない」
なおもじたばた(あば)れるマルケスに、俺は顔を近づけ
「アンディ・マルケスだな?」
「くっ……!」
一応(いちおう)確認したのだが、この反応だけで本人であることは明白(めいはく)だった。
「よーし。そんならこれから、一緒(いっしょ)にICPOの支部(しぶ)まで行ってもらうぞ。大人しく俺達の生活費(せいかつひ)になれ」
「他に言い方はねえのか!?」
一体何が不満(ふまん)なのか、生意気(なまいき)反論(はんろん)してきやがる。
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