海に花、空に指先、地に霞

言葉にした途端、涙が堰を切ったように流れ出した。

…自分でも驚いた。
泣くつもりなんて、なかったのに。

視界が曇る程の…大粒の涙だった。

涙と一緒に、押さえ込んでいた感情も流れ出す。

「……い、遺体が、…あがって……ないの…。父さんの、右手…しか……!」


一年くらい前。

私の両親は、交通事故で死んだ。
対向車のトラックと衝突して、その弾みでガードレールを突き破って、車ごと海に墜落した。

引き上げた車の中から、父と母は、見つからなかった。
…衝撃で投げ出されたんだろう。

でもどんなに海を浚っても、父さんと母さんは、見つからなかった。


やがて、父の右手だけが、発見されて。

…次第に。
捜索は打ち切られてしまった。

だから。
遠い親戚の勧めもあって、右手だけで…お葬式をした。

父さんと母さんの。
二人分の、お葬式を。


…諦める、ために。


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