海に花、空に指先、地に霞


お風呂あがり。
軽く乾かしただけの髪はまだ湿っぽい。

トントン、と襖をノックをする。

「…森さん?入ってもいい?」

スラリ、と音がした。
襖がスライドされて、長身で隻眼の男が顔を出す。

「…花嫁殿」

「遅くにごめんなさい。…お参りさせてもらっていい?」

「ここは花嫁殿の家だ。…我に気遣いはいらぬ」

静かに私を招いてくれる。
ありがとう、と言って、私は部屋の隅に陣取る仏壇に向かう。

この和室は、今ではすっかり森さんの部屋だから、入るときは断らないと、という気になる。

漆黒の鞘に収められた剣は、いつも床の間に置かれていて。細やかな真鍮の細工は、いつ見ても豪奢だ。
いつも着ている民族衣装みたいなのは、今は壁際にかけられている。
夜は夜で、ちょっとラフな感じのハイネックみたいな服を着ている。これも彼の国のものなんだろう。金で縁取られた複雑な紋様が印象的だ。
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