海に花、空に指先、地に霞
「あはは、線、緩んじゃってもう…。また、目が腫れちゃう」
照れ隠しにおどける。
森さんが、武骨な指で涙を拭ってくれた。
「願えば…」
「え?」
「願えば、よかったのだ」
「…森さん?」
「…アレは、…海の王は叶えるだろう。花嫁殿のために。…多少の理を曲げても」
「……駄目だよ、そんなの」
…海の事故で亡くなって、遺体が上がらない人はきっと父さんと母さんだけじゃない。
たくさんの…人が沈んでいるんだろう。
だから…私だけが、願ってはいけない願いだと、ちゃんと分かっていた。
でも、聞きたくて聞きたくて仕方なかった。
縋ってみたかった。
一欠けらでも淋しさを埋めたかった。
そんなことで、喪失感は埋まらないことも、ちゃんと分かっていたのに。
「……ちゃんと、分かってたの。だから、いいの」