海に花、空に指先、地に霞


「………!」

強い、力。

自分で願った事なのに…心臓が破裂しそう。

首筋に森さんの吐息が注がれる。

低い声で囁かれる。
首元から体に吹き込むように。

「いい……匂いがする」

「…お、…お風呂、入ったばっかだから」

「…甘い」

「みんな…、同じの…使ってるでしょ?」

強い腕の中で、少し体をよじると、僅かに力が緩んで。

真正面から向き合うように体勢を変えて、森さんの広い背中に手を回す。

手が…届かない。
大きな、背中。
だから服にしがみつくようにギュッて。
再び森さんも力を込めてくれた。

…すごくすごく、安心する。
この人の温度。
この人の手。
声。

しばらく森さんにしがみついて浸っていると。
ふっとその力が弱まった。
それが合図のように、私の腕も下がる。
…名残惜しそうに。

「…もう休むといい、花嫁……、サナン」

「………うん、おやすみ…なさい」

「おやすみ…」

スルリ、と瞼の辺りに森さんの口唇を感じた。

初めて。
…名前、呼んでくれた。





たくさんのことがあった土曜が終わる。
僅かに芽生えた気持ちも、きっとあったはず。
でも、まだ、私はそれを心の中の正しい位置に、置けないでいた。

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