海に花、空に指先、地に霞
背後から、声がした。
涼やかで、かわいい、声。
振り返ると、黒い髪をさらさら揺らせて、少女が息を切らしてこちらへ向かってくる。
梢子ちゃんだ…。
彼女は、私たちのそばまでくると、少し息を整えるように胸に手を当てた。
そんな仕草まで、本当に可憐。
「も、すごい勢いなんだもん……。はい、お弁当箱。忘れてたよ」
にっこりと笑って、私に巾着袋を差し出した。
わざわざ、追いかけてきてくれたんだ…。
「あ、…入れ忘れてた。…ありがとう」
それを受け取ると。
…さらり、と少女が黒髪を靡かせる。
「こんにちは。雪村梢子です」
さらに、完璧な笑顔で。
凪世に水を向ける。
「…こんにちは」
凪世が、目を見開いた。
じっと食い入るように梢子ちゃんを見つめている。
「沙杏ちゃんのクラスメイトなんです。仲良くさせてもらってます」