海に花、空に指先、地に霞

背後から、声がした。
涼やかで、かわいい、声。
振り返ると、黒い髪をさらさら揺らせて、少女が息を切らしてこちらへ向かってくる。
梢子ちゃんだ…。

彼女は、私たちのそばまでくると、少し息を整えるように胸に手を当てた。
そんな仕草まで、本当に可憐。

「も、すごい勢いなんだもん……。はい、お弁当箱。忘れてたよ」

にっこりと笑って、私に巾着袋を差し出した。
わざわざ、追いかけてきてくれたんだ…。

「あ、…入れ忘れてた。…ありがとう」

それを受け取ると。
…さらり、と少女が黒髪を靡かせる。

「こんにちは。雪村梢子です」

さらに、完璧な笑顔で。
凪世に水を向ける。

「…こんにちは」

凪世が、目を見開いた。
じっと食い入るように梢子ちゃんを見つめている。

「沙杏ちゃんのクラスメイトなんです。仲良くさせてもらってます」
< 137 / 164 >

この作品をシェア

pagetop