海に花、空に指先、地に霞

心臓が、冷たい水を浴びせられたかのように、固まる。

「アトリ!!」

「うるっさいな! 何で何もかもあんたに報告しなきゃならないんだよ! これはこっちの裁量だって!当然だろ?!」

「それでよくも人の…!」

「しょうがないだろ! この場合!! 一番スマートな方法がこれだったんだ!」


…はじめての状況だった。
いつも、じゃれあいのような、小さな皮肉の応酬とかはする二人だけど…こんな真剣に怒っている姿は、見たことが、ない…。

こんなとき。
森さんが居てくれたら、と切に思う。
でも、彼は今日も不在だ。

私は、何とか口を挟む。
男の人の怒った声は…怖い。
ごく稀に、父さんに叱られたときも、いつも怖かった。
虚勢を張って、でも最後は…いつも泣いて謝った。

「や、…やめて! 何…? どうしたの…?」

だからか。
か細い声しか、出てこなかった。

私の小さな仲裁に、二人の怒声が止んだ。

少しだけ、ほっとする。
でも…雰囲気は険悪なまま、張り詰めていた。

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