海に花、空に指先、地に霞

黒いシャツに細身のジーンズ。黒い髪を長めに伸ばして。
切れ長の瞳は、美しくも冷たそうでもあり。目元の笑い皺が優しい雰囲気も醸し出している。
すっと通った鼻梁、形のいい薄い口唇。

その口唇が動いた。
柔らかな、甘いテノール。

「サナンちゃん?向神沙杏?」

「あ、わたし、ですけど」

今時の宅配便は、こんな美形も使うんだ……。
しかし、礼儀がなってない。
ちゃん付け?
呼び捨て?
訝し気に眉を歪めながらも、荷物を受け取ろうとして、手を伸ばした。

その手に、ふ、と彼の手が重ねられる。

「………?!」

慌てて離そうとしたけれど、ぎゅっと強く握られて。

「ちょ…!」

「オレ、ナギセっていうの。よろしく、オレの花嫁さん」

ニッコリと、再び極上の笑顔を浮かべた。

………
ああ…。

春だもんな……

「あ、どうも。じゃ、そうゆうことで」

「コラコラ、変質者扱いしない」

「……いえ、結構です。間に合ってます」

私は何とか手を振り払おうとする。
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