海に花、空に指先、地に霞
「…なんで、そんなに泣くの」
ポンポンと、あやすように背中を叩かれる。
…………帰ってこないと思ったから。
…だって。
知っている。
ある日突然、帰ってこなくなる人がいるって。
そんなことが、結構あっさり起こりうるってことを。
だから…ちょっとだけ………不安になったんだと思う。
本当に、ちょっとだけだけど。
まともに話すことも出来ず、しゃくり上げて泣く私に、柔らかな声が降りかかる。
「…沙杏ちゃん、顔あげて」
「………?」
目を擦りながら顔をあげると、すぐ目の前が陰って。
素早く、口唇を塞がれた。
「……ッ……!?」
コ………コイツ…!
絶対、キス魔だ!!
し、しかも……!!
「ん~ッ…!!」
ちょ、ちょっと、人前……!!
でも抵抗しようにも、ガッチリ抱き込まれていたから。
分かったのは、せいぜい、伏せられた凪世の睫毛が、長いこと。
「ちょっとナギ!目の前でやんないでよね!」
パニックになりながら凪世の腕の中でもがいていると、背後から怒声が飛んだ。