海に花、空に指先、地に霞
家の中は、リビング以外から物音がしないから、多分、誰もいない。
凪世も森さんも、外出しているんだろう。
ふたりっきり。
ソファの上。
半裸の男と……私。
結構、距離も近い。
サイレンが一際大きくなった。
だから、わざと明るく大きい声で。
「さ! もうだいぶ乾いたでしょ! 服着てよね!」
タオルから手を離し、さらに天鳥に掴まれたままの腕を振り解こうと、力を込める。
でも、天鳥は…。
ほんの一瞬、ちょっとだけ寂しそうに口端を歪めただけ。
見たことのない、顔だった。
だから…その表情に見入ってしまった。
その隙をつくように、ちゅ、って。
あっという間に、口唇を重ねられる。
…軽く、挨拶…みたいな、キス。
「…………!」
「……あんたさ。キスするとき、いっつも馬鹿みたいに目ひん剥いてるよね。何で?」
口唇を離されたとたん、悪口ってのも何でよ!!
びっくりするからに決まってるでしょ!
誰も彼も不意打ちしてくるんだから!