海に花、空に指先、地に霞
「あ、当たり前でしょ! いつまでもあんな格好してたら風邪引くわよ!……ていうか、離して!」
「アトリ。火も使ってるから。じゃれるのは後にして」
真横で。
フライパンを返しながら、珍しく凪世が冷たく言い放った。
「うわ、何ソレ。僕、子どもみたいじゃん」
私の肩に顔を乗っけて、横を見る天鳥は、まだ笑っている。
三人も立つには狭いんだけど、この台所…。
私は動きが取れない。
サラダ用に切ろうとしたキュウリも、そのままの形を保っている。
……決意も凍結してしまった。
「ね、ナギ。長い買い物だったよね? どこ行ってたの」
「…スーパーに決まってるだろ」
聞きたいことが聞けなくなった私の、がっかりしたような、安心したような気持ちをよそに。
不意に雲行きが怪しくなった。
その突然の変調についていけず、私は内心で別種類の冷や汗をかいた。
感じたことのない空気だった。
いつも…なんだかんだ小さなことで喧嘩する二人だけど…仲良さそうだったのに。
天鳥は相変わらず、ゆらゆら笑っている。