海に花、空に指先、地に霞
そういって、空の王は、するりと私から離れる。
密着していた部分が、急速に冷えた。
「な……!ぎゃ!」
…離れる直前に、置き土産とばかりに、悪戯されて。
私は今度こそ、固まったままの包丁を手放して、自分の片耳を両手で覆う。
「……どうしたの、沙杏ちゃん」
体中の血が顔に集まるんじゃないかってくらい、顔が茹で上がっているのがわかる。
み、み……耳!!
……噛まれた!!
「…ほんと、色気のない女」
機嫌がいいのか、悪いのか。
つまらなさそうに捨て台詞を残して、天鳥は鼻唄まじりに、リビングへ戻っていった。
行き場を失った、私の怒りとか羞恥心とか。
仕方がないから、盛大にため息を吐いて、済ませることにした。