海に花、空に指先、地に霞

…………春はさ。
暖かくて、海風も柔らかくて、空も爽快で、花木も綻んで、大好きな季節だ。

春というだけで、気持ちだって明るくなる。

…でも、こうゆう人も増えるから困るんだよなぁ…。

「あの…私、まだ学生なので、謹んで辞退申し上げます……」

「そうゆう訳にはいかな…」

あの!と私は声を張り上げて、彼の声を遮る。

「家の前の道、真っ直ぐ行くと、ドンつきなんです。んで、それを左に曲がって、さらに三差路の左斜めの道、坂をあがっていくと、女子大があるんですよ。…そこだったら、どうですかね?」

「……沙杏ちゃん?」

「キレイな人、いっぱいいますよ」

「沙杏ちゃんって」

「結構、偏差値も高いみたいだし、知的な感じの美人が………ん!」

勢いが削がれないように、反問も相槌もさせないように。
一気にまくし立ていると、次の瞬間、口を塞がれた。

柔らかいもので。

それが、彼の口唇だと気がついたのは…。
僅かに…舌が口内に侵入してきたからだ。

滑らかな感触が、あっという間に。
私の舌に絡まってきて。

「んん?!」

慌てて彼の肩を拳で叩くと。

ちゅ、と。
わざと音を立てて口唇を離された…。


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