海に花、空に指先、地に霞
「…アトリ。あの牽制球はルール違反。ああゆうのナシにしようって最初に決めたろ?」
「…別に本当のことじゃん。隠してるほうがルール違反じゃない? それに争奪なんだから、これくらいはかわいいもんじゃない?」
「……髪に触らせたって?」
「………だったら何」
「そんなに気に入った? そんな素振り、見せなかったじゃないか」
「気に入ってなんかないよ。沙杏が強引だっただけ」
「やめろ…お前たち」
「あ、余裕あるみたいだね、シン? なんだかんだで、沙杏は一番シンを信頼してる感じだし」
「お前たちが…手を出しすぎなんだ」
「あのニブいお子様を相手にするんだもん。ちょっとくらい強引じゃなきゃ、絶対恋愛感覚にならないって」
「…それはオレも同感」
「何にせよ…あまり弄ぶな。空の王、海の王…」
「…アレは地上の娘。もともと、あんたの管轄に属する娘だもんね? ますます余裕じゃん」
「…ま、でも今回はオレがもらうよ。…逼迫してるのはお互い様だろうけどね、アトリ」
「どうぞ? でも僕もそんな簡単には引かないけど?」
「……お前たち……。当初の目的を見失うな………」
「……分かってるよ、シン。…見失ってなんか、ない」
「……僕、もう寝る」
「アトリ!」
「…わーかってるって! 僕だって見失ってなんかないよ!」
パタンと、階下で扉が閉まる気配がした。
だから、みんなそれぞれの夜をそれぞれに過ごすんだろうと、私は眠りについた。