世界中の誰よりも

店長は「そうか」と少しも気に留めずどこかへ行ってしまった。

どうして。
あたしが万引きしようとしたのは事実なのに。


「なんのつもりよ」


あたしが睨むと男は小さくため息をついた。


「幸い未遂だからな。今回は見逃す。あ、本返せ」


あたしは恐る恐る鞄の中から雑誌を抜き、差し出した。

そして男はあたしの腕を離し、シッシッと追い払う真似をした。


「さっさと行け」


あたしは言われるがまま、少し躊躇ったけれど、その場から走り去った。
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