世界中の誰よりも
「名前はただ有るだけじゃダメなんだよ。ちゃんと自分のものにしないと」
自分のって。
あたしの名前なんだから、自分のに決まってるじゃん。
拓海君はなんだか変わったことを言う。
隣で同意するように頷く多喜さんとも、あたしは分かり合えそうにない。
あたしが黙っていると、多喜さんがあたしの手元にあるオレンジのマニキュアを見た。
「かわいい色だね」
「だけど多喜には似合わないね」
そうやって拓海君が柔らかく茶々を入れる。
確かに大人っぽい多喜さんにはもっと落ち着いた色が似合いそう。
「私もオレンジ塗ってみようかな」
「周りがびっくりするからやめといた方が良いよ」
優しい拓海君が、多喜さんのことは楽しそうにからかう。