世界中の誰よりも
「じゃあ俺達もう行くな」
拓海があたしにそう言うと、多喜さんは自然な仕草で拓海の手をとる。
幸せそうに微笑む二人に、あたしは同じくらい上手に微笑めたかな。
去り際に拓海が振り返り、あたしに言った。
「いつか幸にも分かるよ。大事な人に名前を呼ばれることで、きっと好きになる。幸って名前が」
そして後ろ姿までお似合いな二人を見送りながら、あたしはぼんやりと考えた。
拓海の言っている意味が、分かる時が来るのかな。
拓海の言う、大事な人が現れたとしたら。
あたしも自分の名前を好きだなんて言うのかな。
持っていたオレンジのマニキュアを棚に戻し、あたしは店を出た。
バイトしている祐司に会いに行こうか。
でもなんとなく勇気がいる。また、今度。