世界中の誰よりも

あたしは鞄を掴むと祐司が居る廊下へ出た。


「とりあえず行くか」


祐司の言葉にあたしは頷き、祐司と並んで校舎を出る。

正面玄関を出た所で、不意に見覚えのある後ろ姿を見つけた。

ちらっと横顔が見えて、瞬間、あたしの胸がぐっと詰まった。


信也先輩。


連絡を取らなくなってから、顔を見たのは初めてだ。

同じ高校に通っているのに変な話だけど。


「どうかしたか?」


祐司に声をかけられてハッとする。


「何でもないよ」


押し倒された時の力の強さや、冷たい瞳を思い出す。

あたしは拳を強く握って、信也先輩を見ないように通り過ぎた。
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