世界中の誰よりも

あたしが何ともないと分かると、父は安堵したように大きく息をついた。


「良かった」


父は小さくそう呟いた。

父の横顔を見ながら、あたしは少しずつ状況を理解し始める。


あたし、襲われそうになったんだ。

転んで、手をかけられた。
危ない所だったんだ。


覆い被さる黒い影を思い出し、小刻みに肩が震え出す。

それに気付いた父が、あたしの肩を優しく擦る。


「怖かったな。もう大丈夫だ」


うん、怖かった。
ほんとにほんとに怖かった。

安心したのか、なんだか分からないけど、ポロポロと涙が出た。

父は黙って肩を擦ってくれた。
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