世界中の誰よりも
いつものあたしなら、父に触られることすら嫌がっただろうけど。
この時は父の手が、ほんとに優しくて。
あたしをとても安心させた。
「あ、居た!お父さん。幸も」
家の方から、エプロンを着けたままの母が小走りでやって来た。
「お父さんたら、いきなり家を飛び出すんだもの……」
母も急いで追いかけたんだろう。息が上がっている。
「あら!幸、どうしたの?何があったの?」
泣いているあたしに気づき、母がうろたえる。
「家で話そう。さぁ、帰るぞ」
父はそう行ってあたしが振り回した鞄を持ち上げ、少し離れた先に落ちていたケータイを拾った。
母はよく理解していないままに、あたしの身体を支えてくれた。