世界中の誰よりも

いつものあたしなら、父に触られることすら嫌がっただろうけど。

この時は父の手が、ほんとに優しくて。
あたしをとても安心させた。


「あ、居た!お父さん。幸も」


家の方から、エプロンを着けたままの母が小走りでやって来た。


「お父さんたら、いきなり家を飛び出すんだもの……」


母も急いで追いかけたんだろう。息が上がっている。


「あら!幸、どうしたの?何があったの?」


泣いているあたしに気づき、母がうろたえる。


「家で話そう。さぁ、帰るぞ」


父はそう行ってあたしが振り回した鞄を持ち上げ、少し離れた先に落ちていたケータイを拾った。

母はよく理解していないままに、あたしの身体を支えてくれた。
< 166 / 264 >

この作品をシェア

pagetop