世界中の誰よりも
・優しい記憶
玄関を開けてローファーを脱いでいると、キッチンから母が顔を覗かせた。
「おかえり、今日は大丈夫だった?」
「うん。加奈子と愛美が送ってくれた」
母は安心したようにふわりと微笑むと、またキッチンに戻っていった。
そう言えば、小学生の頃から学校から帰るといつも母が迎えてくれた。
おかえり、と声をかけられないことなどなかった。
あたしがただいま、と返さなかったことは数え切れないのに。
いつもなら真っすぐ階段を上がり部屋に行くけど、今日は母の後を着いてキッチンに向かう。